うたよむブログ

短歌のこと、読書会のこと

日本歌人2020年1月号 1/2

今月から私の備忘録も兼ねて、『日本歌人』から気になる歌や評論などをメモしていこうと思います。

 

【日本歌人2020年1月号】

・占ひに身を委せたる日もあれど今日のわれは翼もちゐる(仲つとむ)

→翼があれば、風に身を委せることも意思を持って方向転換することもできる。ちなみに一月の占いといえばおみくじ。去年も今年も「でしゃばるな」と出たので、私はしばらく風に身を委せます。

 

・向かうより恫喝顔の車来てなぜか愛車はほほゑみてをり(佐古良男)

→車を真正面から見ると車種によっていろんな顔に見える。車ならそれぞれがそれぞれのままでいいのだけれど、人間はそうはいかない。ほほえみかけられればこちらも微笑んでしまうし、凄まれればこちらは眉をしかめる。「なぜか」とはなんて人間らしいつなぎ方だろう。

 

・使ふことなき搾乳器・冷却器洗ひ終れり明日使ふがに(浦田義子)

→「この家に育ちしうからに牛乳(ちち)を分け酪農七十年の歴史を閉ぢぬ」を含む、酪農最後の日を詠んだ一連。「明日使ふがに」から、動作が深く体に染みついていること、そして今日で最後という実感をまだ持ちきれていないことが感じられて、こころに迫る。

 

・しばらくは六枚葉なるクローバーだけで繋がるふたりの時間(岩田マキエ)

→六枚葉!もし三枚葉ならこの「しばらく」はもっとずっと短い時間だっただろう。六枚葉がくれたボーナスのような「しばらく」。それを慈しむような詠みがやさしいなあと思う。

 

・螺子を巻く指は時空を通り過ぎ箱の蓋とじ膝うえにあり(岡本万貴子)

→一読して、不思議な時間の流れを感じる歌。一連の動作を時系列で詠んだだけなのに、螺子を巻くとき、箱の蓋を閉じるとき、膝の上に手を載せている今、すべての時間の質感が異なっているよう。

 

・出港はあしたの朝かかつを漁船味噌に醤油と積み込まれゆく(山本一成)

→ああ、そうか!漁船の上で漁師さんたちが捌いて食べるときに必要だよね。意外な着眼点で不思議なリアルさを醸し出してる歌。読んで、イメージして、たまらなくお腹がすいた歌。


・募金する動作ゆつくり硬貨見せ百円じやないよ五百円だと(阿部宏祐)

→思わず笑ってしまった歌。そうそう、善意の背景にはいろんな人間らしい思いが渦巻いているものだよね、と。

 

・シケモクをうまいなんぞと思うたら人生終わり 友の吐く、秋(天辰芳徳)

→ここの「終わり」をどう読むか。これは世代によって分かれそう。煙草をある種の美をもって捉えていた時代がたしかにあった。

死(タナトス)と囁くこゑすけむりぐさいつくしきけむりぐさをぞ喫ふ(葛原妙子)

この歌と同じ背景を感じた一首。

 

2/2につづく