うたよむブログ

短歌のこと、読書会のこと

2009-12-01から1ヶ月間の記事一覧

カフカ読みながらとほくへ行くやうな・・・(紀野恵) @現代短歌の鑑賞101

カフカ読みながらとほくへ行くやうな惚れあつてゐるやうな冬汽車 紀野恵/『奇妙な手紙を書く人への箴言集』H3 このカフカはきっと『城』だと思う。 先が雪で白く閉ざされたところを列車が走ってゆく情景は、城に招かれながらたどり着くことはできない主人公…

◆年代別◆歌集一覧

今まで取り上げた歌を歌集の発行年別にまとめました。 昭和5年 前川佐美雄/『植物祭』 ひじやうなる白痴の僕は自転車屋にかうもり傘を修繕にやる 昭和12年 加藤克巳/『螺旋階段』 まつ白い腕が空からのびてくる抜かれゆく脳髄のけさの快感 昭和24年 宮柊二/…

人を統(す)ぶることはさびしき声呑みて・・・(篠弘) @現代短歌の鑑賞101

人を統(す)ぶることはさびしき声呑みて真向ひてゐるわれの抜殻 篠弘/『百科全書派』H2 会社は戦場だ。 ビジネス用語には「ターゲット」「戦略」「戦術」…等々戦闘用語が溢れている。 そんな世界で人を統べるとなれば、私情をはさむ余地はない。 篠さんの歌…

こころねのわろきうさぎは母うさぎの・・・(永井陽子) @現代短歌の鑑賞101

こころねのわろきうさぎは母うさぎの戒名などを考へてをり 永井陽子/『てまり唄』H7 童話のような歌である。 柔らかいタッチで描かれている毒。 心根が極悪ではないから、母うさぎを貶めたり、傷つけたりはしない。 また、心根が善良ではないから、母うさぎ…

お手紙ごつこ流行(はや)りて毎日お手紙を・・・(米川千嘉子) @現代短歌の鑑賞101

お手紙ごつこ流行(はや)りて毎日お手紙を持ち帰りくる おまへが手紙なのに 米川千嘉子/『たましひに着る服なくて』H10 幼稚園くらいの女の子だろうか。 お手紙ごっこが流行っているので、お母さんに毎日お手紙を書いてくる。 「おかあさんおげんきですか。…

雨の中をおみこし来たり四階(よんかい)の・・・(小池光) @現代短歌の鑑賞101

雨の中をおみこし来たり四階(よんかい)の窓をひらけばわれは見てゐる 小池光/『草の庭』H7 この歌、すごい歌である。 一読して簡単に情景は浮かぶが、しっかりと読むと単に情景を詠んだ歌ではない事に気づく。 ちょっと高校の古典の復習っぽくなってしまう…

ひきよせて寄り添ふごとく刺ししかば・・・(宮柊二) @現代短歌の鑑賞101

ひきよせて寄り添ふごとく刺ししかば声も立てなくくづれをれて伏す 宮柊二/『山西省』S24 初めてこの歌を目にした時、ぞくりときた。 戦争で人が生き抜くためには、心を殺さざろうえなかったのだろうか。 そう思った。 上句「ひきよせて寄り添ふごとく」とい…

どうもどうもしばらくしばらくと・・・(高瀬一誌) @現代短歌の鑑賞101

どうもどうもしばらくしばらくとくり返すうち死んでしまいぬ 高瀬一誌/『レセプション』H1 なんともアイロニカルな歌だ。 上句。そうそう、いるいる!こういう人!・・・なんて思いつつ下句に行くと、あらら、という展開。 一首を通して読むと、なんだか滑稽…

岩の上に時計を忘れ来し日より・・・(前登志夫) @現代短歌の鑑賞101

岩の上に時計を忘れ来し日より暗緑のその森を怖る 前登志夫/『子午線の繭』S39 不思議な感覚を呼び起こさせる歌だ。 「暗緑のその森」という表現から、とらえきれない自然の不気味な奥深さを感じ取ることができる。 そこに時計を置き忘れたという。 時計とは…