うたよむブログ

短歌のこと、読書会のこと

2009-11-01から1ヶ月間の記事一覧

夜の暗渠みづおと涼しむらさきの・・・(高野公彦) @現代短歌の鑑賞101

夜の暗渠(あんきよ)みづおと涼しむらさきのあやめの記憶ある水の行く 高野公彦/『水行』H3 静かな夜、水音、ほの暗い中で幻視される紫色。 その空間を占める遠いあやめ記憶。 まるでこの世とは思えない情景だ。 あやめの記憶を宿している水は、もしかした…

ゆるゆるの編目のような子と我の・・・(鶴田伊津)

ゆるゆるの編目のような子と我の時間のはじめ まずは泣かれる 鶴田伊津/『百年の眠り』 鶴田伊津さんの『百年の眠り』より。 なんだかとっても微笑ましい歌。 そうだよね、子供はまずは泣いてしまう。 産まれてきてくれた喜びは、母親や父親が抱くもの。 け…

積まれある柘榴ひとつが転がると・・・(木曽陽子)

積まれある柘榴ひとつが転がると総崩れせるまぼろしのあり 木曽陽子/『モーパッサンの口髭』 木曽陽子さんの『モーパッサンの口髭』より。 なんという幻視だろう。 ここには外なる崩れと内なる崩れの両方がある。 かごか何かに積まれている赤いザクロが、何…

肌の内に白鳥を飼うこの人は・・・(佐々木幸綱)

肌の内に白鳥を飼うこの人は押さえられしかしおりおり羽ぶく 佐々木幸綱 こんなにも女性をしなやかに表現した歌ってあるだろうか。 「羽ぶく」というその動き、羽の柔らかなイメージで、白いしなやかな肌をもって美しくあがく女性の様子が伝わってくる。 と…

死後のわれは身かろくどこへも現れむ・・・(中城ふみ子) @現代短歌の鑑賞101

死後のわれは身かろくどこへも現れむたとへばきみの肩にも乗りて 中城ふみ子/『花の原型』S30 死を目前としたときの、くらくらするような絶唱だ。 重苦しくはない、むしろ「身かろく」だ。けれど、そこまで歌えるようになるには、どれほどの覚悟がいったの…