うたよむブログ

短歌のこと、読書会のこと

2009-07-01から1ヶ月間の記事一覧

硝子戸の中に対称の世界あり・・・(尾崎左永子) @現代短歌の鑑賞101

硝子戸の中に対称の世界ありそこにもわれは憂鬱に佇つ 尾崎左永子/『さるびあ街』S32 表情は魂なのかもしれない。 私たちは、自分の表情を鏡で見ることができる。できるけれども、その時は心のどこかで覚悟ができていて、それなりの顔をして鏡に向かう。 掲…

果物、肉など吊り降ろしおく…(森岡貞香)

果物、肉など吊り降ろしおく白き紐井戸よりはみ出てをりぬ 森岡貞香/『未知』 短歌の魅力は何か。 それを考えるとき、森岡さんのこういう歌を思い出す。 不思議なリズムの歌だ。リズムというか…さらっと読めない。だから、不思議な感覚を呼び起こす。 この歌…

ふとわれの掌さへとり落とす…(浜田到) @現代短歌の鑑賞101

ふとわれの掌さへとり落とすごとき夕刻に高き架橋をわたりはじめぬ /浜田到 『架橋』S44 不安定な感じの歌だ。 「掌さえもとり落とす」という不思議な表現に、ちょっと立ち止まる。 どんな感じだろう?その感覚・・・ 物を掴み、認知するための掌。 それを失…

水銀灯ひとつひとつに一羽ずつ…(穂村弘) @現代短歌の鑑賞101

水銀灯ひとつひとつに一羽ずつ鳥が眠っている夜明け前 /穂村弘 『ドライ ドライ アイス』 短歌の読み方を学んだ印象的な一首。 しんとした雰囲気の夜明け前の空気に、かすかな鳥の眠りの息遣いが聞こえる。そんなひそやかな空気感を持った歌・・・最初はそう…

森岡貞香さんの歌の魅力-作者の世界で自在に遊ぶ

森岡貞香さんの歌を鑑賞する時、私は不思議な魅力を感じながらも、ちょっとだけ安心をするのだ。 その理由は、解釈や感じ方を読者に委ねてくれる歌であるからだと、最近気づいた。 「現代短歌の鑑賞101」の解説文によると、森岡貞香さんのうたは難解派といわ…

夕雲に燃え移りたるわがマッチ…(葛原妙子)

夕雲に燃え移りたるわがマッチすなはち遠き街炎上す /葛原妙子 ハッとするような美しい歌だ。 マッチを擦って燃え上がる炎が、夕焼けにつながって、遠い街の炎上を幻視する。幻想的な歌だ・・・とも思う。 でも、初めてこの歌を読んだ時は、写実っぽさを非常…

魚食めば魚の墓なるひとの身か…(水原紫苑) @現代短歌の鑑賞101

魚食めば魚の墓なるひとの身か手向くるごとくくちづけにけり /水原紫苑 『うたうら』 焼き魚に箸をつけ、ふと頭をよぎる。 海にいた時の魚のこと、餌にかかり海より引き上げられるところ、その先に今があること。 そして今、魚を口にするこの身が魚の墓場と…

ひきだしを引けど引けざりすぐそばに…(森岡貞香) @現代短歌の鑑賞101

ひきだしを引けど引けざりすぐそばに隠れて見えぬものにくるしむ /森岡貞香 『百乳文』 数日前、まったく同じ経験をしてふと思い出してしまった歌。 ひきだしが、隠れて見えない何かのせいで、うんともすんとも動かない。 この見えないものに対するなんとも…