【日本歌人2020年2月号】 (つづき。前の記事はこちら)日本歌人には「佐美雄の一首」というコーナーがあり、毎月会員が前川佐美雄の歌の鑑賞を行っています。今回は前田寧さんの鑑賞。歌集『植物祭』から。・かなしみを締めあげることに人間の力を盡(つく…
今月も「日本歌人」誌から気になった歌や特集などをメモしていきます。【日本歌人2020年1月号】・明朝は霜降るでせう今宵なるサラダに月の香りするなる(佐藤光子) ・時刻む病身の音自省なる鞭は鞭なれど甘やかに生く(佐藤光子) →自省の鞭は厳しさを思わ…
【日本歌人2020年1月号】(つづき。前の記事はこちら) 今月から始まった特集連載は「『梁塵秘抄』を読む」(馬場光子)。今回は、子どもの遊び、遊女…等「遊び」の歌から今様の魅力を探っています。 「今様の魅力は、これを歌い出したその時点で歌い手その…
今月から私の備忘録も兼ねて、『日本歌人』から気になる歌や評論などをメモしていこうと思います。 【日本歌人2020年1月号】 ・占ひに身を委せたる日もあれど今日のわれは翼もちゐる(仲つとむ) →翼があれば、風に身を委せることも意思を持って方向転換する…
目に見えないものを疑いもなく信じる私たちを立ち止まらせる歌だ。朝食でパンか何かを焼いていたのだろうか。そのまま忘れてしまい、焦げ臭さが部屋に充満する。 しまった…という朝のひとこまである。そんな部屋にある空気清浄機。 目に見えないものは除去す…
音楽というものは、わかり合いにくいものだ。 その曲の魅力について、言葉を尽くせば尽くすほど伝わらない。理解と共感の距離が遠いのだ。 「そっか。あなたはそんなにその曲が好きなのね!」 掲出歌の人物は、それを知ってか知らずか「わたし」の問いに答え…
新しき職場に移りいくつかの秘密の道を歩みて通ふ 太田征宏/『銀座木挽町』H28 秘密とは、ある事柄に精通しているからこそ、あるものだと思っていた。 しかし、どうやら<未知だから見える秘密>というのもあるらしい。 新しい職場へ向かう新しい通勤の道。 …
未来予想の答え合わせをする〈今〉はちょっと楽しい。 例えば1970年の大阪万博。 当時の未来予想(携帯電話、電波時計、電気自動車、人間洗濯機!…etc)を今見ると、そのままの未来あり、驚くような発想ありで、興味深い。 そして当時の人々の未来を見つめる…
陶酔はきみだけでない睡蓮がぎつしりと池に酔ひしれてゐる 前川佐重郎/『天球論』H14 この歌を読んだ時、別世界に連れていかれた気がした。 黄色い芯を持つ目のさめるような色の睡蓮は、池一面に葉を広げ花を咲かせている。 その情景に心を奪われた。 しかし…
青空の井戸よわが汲む夕あかり行く方を思へただ思へとや 山中智恵子/『みずかありなむ』S43 歌謡曲の作詞家、松本隆の歌詞にこのようなものがある。 夢遊病の街へと 飛び込みするポーズ 生きることに少し飽きかけているんだ 下り傾斜だからね 手を広げて走る…
片恋よ 春の愁いの一日をティッシュペーパーほぐして過ごす 服部真里子/『行け広野へと』H26 無自覚の情念というものがあるとすれば、それは掲出歌みたいなものかもしれない。 狂おしさや激しさが表出しない、自分で気づくことができない情念。 手持ち無沙汰…
たちまちに君の姿を霧とざし或る楽章をわれは思ひき 近藤芳美/『早春歌』S23 音楽がある人のイメージと重なるということはたまにある。 ある曲を聴いて、その人を思い出すという具合に。 メロディが引き金になって、情景や人物が生き生きとよみがえるのだ。 …
うた新聞11月号の特集「色彩の歌」に「黄金結界」3首と100文字エッセイが掲載されています。もし手にする機会がありましたら、読んでいただけたら嬉しいです。
シェルターのように敬語をつかわれて牛タンネギ塩じんわりと噛む 俵万智/『オレがマリオ』H25 この歌に魅かれたのは牛タンが入ってるからじゃないの?と言われれば、そうですというしかない。 仙台人にとってきっと牛タンはちょっと特別な位置づけの食べ物な…
制服にセロハンテープを光らせて(驟雨)いつまで私、わらうの 山崎聡子/『てのひらの花火』H25 「箸が転んでもおかしい年頃」という言葉をふと辞書で見たときに驚いた。 思春期の女子に対していう言葉だという。 女子だけ? あの、くだらないことで、理由も…
『現代短歌』8月号「結社の力Ⅱ」の結社推薦歌人特集に短歌「温泉虫(ユスリカ)」7首が掲載されました。日本歌人に入ったのは、前川佐重郎の『彗星紀』の一首を知って、この人から短歌を習いたい!と思ったのがきっかけです。 もし手にする機会がありましたら…
たつた一人の母狂はせし夕ぐれをきらきら光る山から飛べり 前川佐美雄/『大和』S15 狂気の一番美しい瞬間がこの歌にはあるように思う。 不甲斐なさとか、やるせなさとか、絶望とか。狂気の引き金となったすべてをひっくるめて、身を投下する瞬間。 マイナス…
『うた新聞』5月号「ライムライト」のコーナーにエッセイ「記憶の遊び場」を寄稿しました。地名の入った歌についてのあれこれ。場所の記憶は人の記憶?もし手にする機会がありましたら、読んでいただけたら嬉しいです。
庭のうめ花二三輪のこれるは咲きそめのころに似てうひうひし 上田三四二/『照徑』S60 年をとると、子供のようになるとよく言われる。 きゃらきゃらと笑う母。偉大な駄々っ子に変貌する父。 そういうのを垣間見たとき、老いを感じずにはいられない。 幼児性か…
「ナイス提案!」「ナイス提案!」うす闇に叫ぶわたしを妻が搖さぶる 堀合昇平/『提案前夜』H25 掲出歌の「わたし」は、「ナイス」といいながら、むしろ夢にうなされている。 その"心"とハイな"気分"の食い違いに、自分ですら違和感を持たなくなっていく怖さ…
わたしよりうつくしい眼のそのひとに如雨露のような性欲だろう 大森静佳/『てのひらを燃やす』H25 多すぎず、少なすぎず、ある花をきれいに咲かせるのに十分な如雨露の水。 そして、花に向かってだけ注がれる如雨露の水。 花はそれを知ってか知らずか、すく…
握り飯をジンジャーエールで流し込むわが飲食を犬が見みていた 斉藤真伸/『クラウン伍長』H25 ジンジャーエールが生姜の飲み物だと知ったのは大人になってからだった。 それまでは"ジンジャー”を気にも留めず、ジンジャーエールとは単に炭酸飲料の一種だと思…
河北新報1月28日夕刊カルチャー面「創(つくる)」で取り上げられました。もし手にする機会がありましたら、読んでいただけたら嬉しいです。
『短歌研究』2月号「相聞・如月によせて」に「いくつかは恋」7首と相聞歌のエッセイで松平修文の歌を取り上げました。もし手にする機会がありましたら、読んでいただけたら嬉しいです。
12月3日の朝日新聞夕刊「あるきだす言葉たち」のコーナーに「食卓」10首を寄稿しました。もし手にする機会がありましたら、読んでいただけたら嬉しいです。
もはや跳ぶほかなきゆゑに此の距離を跳べると思ふ 思ふゆゑ、跳ぶ 光森裕樹/『うづまき管だより』H25 説得力を持たせる言葉。 説得力を持たせる無言。 私たちは一見ロジカルに見えるものがあると、なんだか納得できそうな気がする。 この歌は、一字あけの空…
『短歌研究』11月号「新進気鋭の歌人たち」に「リラ」10首とエッセイ「初めて出会った歌」が掲載されました。もし手にする機会がありましたら、読んでいただけたら嬉しいです。
このたび、第56回短歌研究新人賞の次席に入選しました。 『短歌研究』9月号に「きつね森」30首が掲載されました。もし手にする機会がありましたら、読んでいただけると嬉しいです。 直接的、間接的に、指導・刺激を下さったみなさま、どうもありがとう…
廃線になる日は銀杏のふるさとを囲ふ踏切すべてあがる日 光森裕樹/『鈴を産むひばり』H22 銀杏のふるさとを開け放つ日。 一斉にすべての踏切があがる情景は凜として美しい。 そして、かすかにその情景は、降参して両手を上げる様子と重なる。 ふるさとを延々…
「日本歌人」平成25年1月号から半年間、時評を書きました。 以下、備忘録としてタイトルを記載します。 1月号:詞書をめぐって 2月号:歌集で短歌と出会えるか 3月号:歌にいのりを 4月号:短歌における共感の変化―時代の気分から 5月号:共感の距離感 6月号…