なに聴いているのと聞けばコンクリでおしりがぬくいと目を伏せたまま /初谷むい
音楽というものは、わかり合いにくいものだ。
その曲の魅力について、言葉を尽くせば尽くすほど伝わらない。理解と共感の距離が遠いのだ。
「そっか。あなたはそんなにその曲が好きなのね!」
掲出歌の人物は、それを知ってか知らずか「わたし」の問いに答えない。
それでも通じあえている感じがおもしろい。
これはどういうことだろう?
きっとこの歌を翻訳するとこんな風になるのかもしれない。
「なに聴いてるの?(→意識がどこか別な世界に行ってない?)」
「おしりがぬくい(→ここにいるって)」
つまり、「わたし」は音楽の世界から相手を引き戻しているのだ。そして相手も体感という今ここの世界で応答する。
一見ちぐはぐな、でも意識を引き寄せあう会話。
そんなちぐはぐさはなんだか素敵である。
(掲出歌は『花は泡、そこにいたって会いたいよ』より)