新しき職場に移りいくつかの秘密の道を歩みて通ふ/太田征宏
新しき職場に移りいくつかの秘密の道を歩みて通ふ
太田征宏/『銀座木挽町』H28
秘密とは、ある事柄に精通しているからこそ、あるものだと思っていた。
しかし、どうやら<未知だから見える秘密>というのもあるらしい。
新しい職場へ向かう新しい通勤の道。
世界はそんな新鮮な心持ちの人たちにだけに、ちょっとした秘密をみせてくれるのかもしれない。
例えば、掲出歌の後にある次のような歌。
この角をまがればいつも人生を考えてゐる紅き薔薇の芽
新鮮さがあるうちは、周りをよく見て、いろいろな気づきがある。
いつも歩いている人は目もくれない、でも喜びに満ちている空間。
生活感のある職場と言う場所に向かうからこそ、そこにひらかれた<秘密>は美しい。
この道に慣れたらきっと感じることができなくなってゆく秘密を、この瞬間に見つけられた作者は幸せなのだと思う。