うたよむブログ

短歌のこと、読書会のこと

日本歌人2020年2月号 1/2

今月も「日本歌人」誌から気になった歌や特集などをメモしていきます。

【日本歌人2020年1月号】

・明朝は霜降るでせう今宵なるサラダに月の香りするなる(佐藤光子)
・時刻む病身の音自省なる鞭は鞭なれど甘やかに生く(佐藤光子)
→自省の鞭は厳しさを思わせるが、どこか達観した全肯定を感じる歌。その背景に、月の香りまで感じるある種の研ぎ澄まされた感覚があっておののいた。

・噴水は直に上がりて折れ下るその宿命をわれも持ちゐし(小山良)
→ぱあっと登ってぱっと落ちる。この宿命は厳しすぎやしないか。だけど、そういうことはままある。作者も持ちゐし、私も持ってる。

・試食してこれはうまいと言ひおれば「おれにくれえ」と隣室の父(森川延一)
→介護をしていると、時々人間の原始的なありようを目の当たりにすることがある。これもそのひとつだろう。自分も隠し持っている生きることへの赤裸々な欲望。

・名も知らぬ小さき池にカモ泳ぎ小さき水輪幾重も光り(大畑美千代)
→名も知らぬ小さな池へのまなざしが優しい歌。幾重にも光る水輪から、自然はあらゆるものに等しく美しさを与えてくれるのかとも思ってしまう。

・日に四時間働いただけの縄文人つながる裸体を鏡にうつす(後藤由美香)
縄文人も現代の私たちも生きるために働いているはずなのに、現代はこんなにも窮屈になってしまった。同じ体を持ちながら、とんでもなく時空を飛んできてしまった気がする。

・だれも連れぬ男の子ひとりバケツもて昼の砂場にしやがんでゐたり(都築直子)
→こういうところに、大人はわからない、男の子ひとりの宇宙があるのだと思う。さみしくないの?は大人の思考。

・過ちに切りし創より落つるもの一滴の鬱一滴の狂(内田令子)
→ふいに切ってしまった指から出てくる血。自分の内に持つその赤さに、ハッとしてしまう。同じように普段は気づかなくても、鬱も狂気も自分の内に確かに息づいているのだ。

奈良時代とてわづか千年余りのことなるに新聞に大騒ぎする朝刊のインクの匂ひ(森本善信)
→でっかいスケールでつかんだ歌。わずか千年と思えば、新聞が騒ぎ立てる大ニュースやスクープが急に軽くなってしまうから不思議。そしてその軽さの中に私たちが生きている。


2/2につづく