うたよむブログ

短歌のこと、読書会のこと

2009-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ふるさとを去らぬは持たぬことに似て・・・(大辻隆弘) @現代短歌の鑑賞101

ふるさとを去らぬは持たぬことに似て九月 素水をつらぬくひかり 大辻隆弘/『ルーノ』H5 生まれ育った地を、「ふるさと」と感じるには、一度はその土地を離れる必要があるのかもしれない。 たしかに私も、故郷を離れて、「ふるさと」ということを意識しだした…

フロアまで桃のかおりが浸しゆく・・・(加藤治郎) @現代短歌の鑑賞101

フロアまで桃のかおりが浸しゆく世界は小さな病室だろう 加藤治郎/『マイ・ロマンサー』H3 ニセモノで癒されることだってある現代。 病んでしまった現代人のために剥かれた桃はニセモノで、でもそれでさえ癒しを感じることが私たちには出来るのだ。 たとえ…

蛍田てふ駅に降りたち一分の・・・(小中英之) @現代短歌の鑑賞101

蛍田てふ駅に降りたち一分の間にみたざる虹とあひたり 小中英之/『わがからんどりえ』S54 なんて美しい歌なんだろうと思った。 儚い命を持つ蛍の光と、短い時間だけ空にかかる虹の美しさ。 この三十一文字を目で追うそのひととき、読み手の脳裏では、天と…

行きて負ふかなしみぞここ鳥髪に・・・(山中智恵子) @現代短歌の鑑賞101

行きて負ふかなしみぞここ鳥髪に雪降るさらば明日も降りなむ 山中智恵子/『みずかありなむ』S43 自分で生き方を選択してきたつもりだ。 だから、自分が今ある状況を、誰かのせいにはしない。 良いことも悪いことも、自分が選んできた結果として受け入れて…

はらわたに花のごとくに酒ひらき・・・(石田比呂志) @現代短歌の鑑賞101

はらわたに花のごとくに酒ひらき家のめぐりは雨となりたり 石田比呂志/『滴滴』S61 いろいろな思いがこもった独りの歌だと思う。 外はもちろん雨なのだが、「家のめぐり」という区切り方がさびしい。 降る雨の縦ラインがまるで牢のように感じる。もしくは…

いろ湛ふる淵に沈むやうによそゆきの・・・(森岡貞香) @現代短歌の鑑賞101

いろ湛ふる淵に沈むやうによそゆきの着物のなかに入りぬうつしみ /森岡貞香 森岡貞香さんを知ったのは、今年に入ってからで、しかも短歌雑誌の追悼特集でだった。 『現代短歌の鑑賞101』でも小さな写真は載っているが、その雑誌できちんとした本人の写真…

人あまた行く夕暮の地下街を・・・(香川ヒサ) @現代短歌の鑑賞101

人あまた行く夕暮の地下街を無差別大量の精神過ぎる 香川ヒサ/『ファブリカ』H8 四句目にきてぎょっとする。 「無差別大量」…ときて連なる言葉で連想してしまったのが「殺人」だったからだ。 ゆったりした気持ちで読んでいた歌の途中で、急に夜十時のニュー…

大勢のうしろの方で近よらず・・・(山崎方代) @現代短歌の鑑賞101

大勢のうしろの方で近よらず豆粒のように立って見ている 山崎方代/『こおろぎ』S55 共感をもって読んでしまう一首。 なにやら前方で何かがあって騒がしい。 なんだろう?興味はある。 そう思ったとき、その中にすっと入っていける人がいる。その一方ですん…

少年のたてがみ透きてさやさやと・・・(井辻朱美) @現代短歌の鑑賞101

少年のたてがみ透きてさやさやと遥かな死海にとほる夏風 井辻朱美/『地球追放』S57 少年の髪の間を心地よく抜ける風は、死海を通ってきたものらしい。 それだけで、イメージの世界がわっと広がる。 風を含み、光を受けて淡く透き通る少年の髪。 その美しくあ…