うたよむブログ

短歌のこと、読書会のこと

この部屋に濃霧立ち込めたる朝の空気清浄機の役立たず/惟任将彦『灰色の図書館』

目に見えないものを疑いもなく信じる私たちを立ち止まらせる歌だ。

朝食でパンか何かを焼いていたのだろうか。そのまま忘れてしまい、焦げ臭さが部屋に充満する。
しまった…という朝のひとこまである。

そんな部屋にある空気清浄機。
目に見えないものは除去するけど、焦げ臭い煙は吸えない空気清浄機。
改めて考えると、なんだか狐につままれた気分になってくる。

もし70年前に空気清浄機があれば、煙を吸えない時点で性能は信じてもらえまい。
だけど今は、そんなものだということがわかっている。だから明日も疑いなく空気清浄機にスイッチをいれるだろう。

現代は、目に見えない技術を信じる能力がだいぶついてきた。
その能力はどこから生まれてくるのだろう。専門家ではない自分のこの信心深さが、ふと怪しく感じられるのだ。