2012-04-01から1ヶ月間の記事一覧
血と雨にワイシャツ濡れている無援ひとりへの愛うつくしくする 岸上大作/『意志表示』S36 安保闘争をわたしは知らない。 けれどその答えを知っている。 だからだろうか、私は岸上大作の歌を読むときに少し距離をおきたくなってしまう。 あるいは、うつくしい…
さくらばな陽に泡立つを見守(まも)りゐるこの冥き遊星に人と生れて 山中智恵子/『みずかありなむ』S43 地球という冥い遊星に、泡立つように桜が咲き誇る…とても幻想的な情景だ。 桜の泡沫のようなはかない美しさが一層際立つのである。 そして、私たちはい…
夕焼のにじむ白壁に声絶えてほろびうせたるものの爪あと 前川佐美雄/『捜神』S39 叫びが聞こえる。 初めてこの歌を読んだときそう思った。 「声絶え」たあとの逆説として、痛切な叫びが聞こえたのだ。 夕焼けに照らされた白い壁に、絶滅した“何か”の爪あとが…
廃村を告げる活字に桃の皮ふれればにじみゆくばかり 来て 東直子/『春原さんのリコーダー』H8 この歌の得体のしれない焦燥感。 それが「来て」の一語を引き出すとき、「わたし」自身まで渇いた存在になる。 たとえば廃村。 この言葉は、今現在のみならず、ひ…
ネックレスの真珠散りしは小変事なれど隣国の乱の夜なれば 富小路禎子/『不穏の華』H8 女性の持つ第六感というものは特に得体がしれないものだ。 たとえばそれは掲出歌のようなものである。 ネックレスの糸が切れて、真珠が散り散りになる瞬間。 そのはっと…